FX歴12年、システムトレーダーのRYOです。
「このEA、バックテストで純益◯億円です!」――こういう売り文句、SNSでも販売ページでも、嫌というほど見かけますよね。で、添えられた右肩上がりの資産曲線を見て、「お、すごそう」と思ってしまう。気持ちは分かります。自分も昔はそうでした。
でも、12年トレードと検証を続けてきて、今はっきり言えることがあります。バックテストの「純益」と「右肩上がりのグラフ」は、一番あてにならない部分です。 むしろ、その派手な数字をどう作ったかの裏側を見ないと、簡単に騙されます。
この記事では、僕がEAのバックテストを見るときに「ここを見ないと判断しない」という指標を、順番に整理します。しかも全部、自分が作った検証用ゴールドEA「Arsene(アルセーヌ)」の実際のバックテストデータで説明します。これは販売物ではなく、あくまで「数字の読み方」を説明するための実例です。
先に言っておくと、Arseneは複利設定で「6.4年・純益4.5億」という派手な数字が出たEAです。でも自分で解剖した結果、固定ロットの正直な実力はプロフィットファクター(PF)1.41でした。この「4.5億」と「PF1.41」のギャップこそが、今日の教材です。
結論:見る順番はこの7つ。純益は最後でいい
長くなるので、先に「見る順番」を置いておきます。
- 検証期間 ― 短すぎないか/好調期だけ切り出していないか
- モデリング品質(データの質) ― そもそも信用できるデータか
- 相対ドローダウン(DD) ― 最大DDより、まずこっち
- プロフィットファクター(PF) ― 優位性の「素の濃さ」
- 複利の見せ方の罠 ― 「億」がロットで作られていないか
- インサンプル/アウトオブサンプル ― 過去に当てはめただけ(カーブフィット)じゃないか
- 純益(最後でいい) ― ここまで見て初めて意味を持つ
順番が大事です。純益を最初に見るから騙される。 ひとつずつ、実データで説明します。
① 検証期間 ― 「短期」と「好調期だけ」は二大トラップ
最初に見るのは、損益でも勝率でもなく「いつからいつまで回したか」です。
期間でやられるパターンは2つあります。
罠その1:期間が短すぎる。
半年や1年のバックテストは、相場の「気分」を1つしか通っていません。上昇相場だけ、レンジだけ、で終わっている可能性がある。これでは、別の相場が来たときに使い物になるか分かりません。最低でも数年、できれば上昇・下落・レンジを全部含む長期で見たい。
罠その2:好調期だけを切り出している(チェリーピッキング)。
これが一番たちが悪い。たとえばゴールドのEAなら、金が歴史的に上がった「2024年〜」を開始日にすれば、誰がやっても綺麗な右肩上がりが作れます。でもそれは「いい時期だけを選んで見せている」だけ。
僕は自分のArseneで、わざとこれを検証しました。同じEA・同じ複利10%という設定でも、開始年を変えるだけで結末がこう変わります。
| 開始年 | 期間 | 複利10%の結末 | 相対DD |
|---|---|---|---|
| 2022年〜 | 4.4年 | +1億6,104万 | 61.50% |
| 2016年〜 | 10.4年 | +6,146万(2022開始より少ない) | 87.08% |
| 2010年〜 | 16.4年 | 破綻(口座退場) | ― |
設定は全部同じです。違うのは開始年だけ。「2022年から」を切り出せば+1.6億、でも「2010年から」だと破綻。 もし売り手が前者だけを見せていたら、それは実態よりはるかに強く見せていることになります。
だから僕は、自分のEAでも必ず全期間(悪い年を含む)を基準にします。好調期を見せるとき(「直近の上昇相場だけを切り出すと」)は、必ずそう明示します。隠して開始日にするのは、優良誤認だと思っています。
見方のコツ:「なぜこの開始日なの?」と一度疑う。 区切りの悪い開始日(中途半端な年・月)は、「そこから始めると一番綺麗に見えるから」を疑っていい。
② モデリング品質 ― そもそも、そのデータは信用できるか
期間の次は「データの質」です。MT4のバックテストには「モデリング品質」という数字が出ます。これが低いと、そもそも結果自体が砂上の楼閣です。
- 90%(コントロールポイント)止まり:足の中の値動きを推測で補完しているので、スキャルピング系では誤差が大きい。
- 99.9%(全ティック)/不整合エラー0:実データに近い精度。ここまであって初めて、成績を議論する土台になる。
Arseneのバックテストは、XMTradingの実データでモデリング99.90%・全ティック・不整合エラー0で回しています。スキャル系のEAほど、ここが甘いと結果が大きくブレるので、まず「99.9%か?」「ティックデータか?」を確認してください。
ここが90%だったり、データソースが書いていないバックテストは、その先の数字を議論する前に保留でいい、というのが僕の基準です。
③ 相対ドローダウン ― 最大DDより、まずこっちを見る理由
ここが、今日一番伝えたいところです。
ドローダウン(DD)=「資産がピークからどれだけ減ったか」。EAのリスクを測る最重要指標です。で、MT4には2種類のDDが出ます。
- 最大ドローダウン(絶対額・絶対%)
- 相対ドローダウン(%)
多くの人は「最大ドローダウン」だけ見ます。でも僕は、まず相対ドローダウンを見ます。 なぜか。
実例を出します。Arseneの複利リスク15%設定の数字です。
| 指標 | 値 |
|---|---|
| 最大ドローダウン | 17.44% |
| 相対ドローダウン | 81.73% |
見てください。同じEA・同じ検証なのに、最大DDは17%、相対DDは81%。4倍以上の開きがあります。「最大DD17%なら全然耐えられる」と思った人ほど、危ない。
なぜこんな差が出るか。ざっくり言うと、複利でロットがまだ小さい初期にDD%が記録されると、絶対額ベースの「最大ドローダウン」は小さく出やすい。一方「相対ドローダウン」は、資産がピークに対して一番深く沈んだ瞬間の割合を捉えます。複利でロットが膨らんでいくEAでは、この相対DDのほうが「実際に味わう恐怖」に近い。
相対DD81.73%というのは、資産のピークから一時的に8割が消える局面があったという意味です。100万が一瞬20万になる。これに心理的・資金的に耐えられる人は、まずいません。
そして大事なのは、この数字は派手な資産曲線には絶対に映らないこと。後半が急騰するグラフだと、縦軸の桁が大きすぎて、初期の深いDDは視覚的に潰れて見えなくなります。グラフが綺麗でも、相対DDの数字は必ず別で確認してください。
見方のコツ:「最大DDが小さい」で安心しない。相対DDを探す。 載っていなければ、出していない理由を疑う。利益とDDは同じコインの裏表で、片方(利益)だけ見せて片方(DD)を隠すのは、事実の歪曲です。
④ プロフィットファクター(PF) ― 優位性の「素の濃さ」
プロフィットファクター(PF)=「総利益 ÷ 総損失」。1.0なら勝ち負けトントン、それより大きいほど優位性がある、という指標です。
ただし注意点があります。PFは「期間」と「ロットの増え方」で化けます。 だから「PFいくつ?」だけでなく「どの条件のPFか」をセットで見ます。
Arseneを例にすると、見る条件でPFはこう変わります。
| 条件 | PF | 補足 |
|---|---|---|
| 直近4.4年・固定ロット | 1.52 | 上昇相場が効いている期間 |
| 16年・固定ロット | 1.08 | 不調期も全部含めた「素の優位性」 |
| 複利リスク15% | 1.76 | ロットの増え方が乗った見かけの値 |
同じEAで、PFが1.08から1.76まで動きます。一番正直なのは、不調期も含めた長期・固定ロットのPF1.08。これは「100の損失に対して108しか勝てていない」という、かなり薄い優位性です。
ここで僕が正直に言うのは、Arseneは万能じゃないということ。ゴールドが上がる相場では効く(PF1.52)。でも全期間で均すと優位性は薄い(PF1.08)。この落差を隠さないことが、信頼だと思っています。
見方のコツ:PFは2.0超えなどの高い値ほど、「短い期間」か「好調期だけ」か「複利で盛れていないか」を疑う。 長期・固定ロットで1.1〜1.5あたりが、現実的なEAの素の姿だと考えています。
⑤ 複利の見せ方の罠 ― 「億」はロットが作る
ここが、販売EAで一番騙されやすいポイントです。
「純益◯億」という数字の多くは、戦略が賢いからではなく、複利で賭け金(ロット)を膨らませたから出ています。優位性は同じでも、張る量を増やせば額は跳ね上がる。当たり前のことですが、グラフだと分からなくなる。
Arseneの「4.5億」を解剖します。年ごとに、複利での損益と、固定ロット換算を並べます。
| 年 | 平均ロット | 複利での損益 | 固定0.01ロット換算 |
|---|---|---|---|
| 2020 | 0.24 | +491,082 | +23,944 |
| 2021 | 0.49 | -263,018 | -8,460(負け年) |
| 2024 | 0.93 | +3,378,808 | +41,385 |
| 2025 | 26.39 | +207,498,542 | +80,554 |
| 2026(〜6月) | 50.0(上限張付) | +240,743,556 | +48,149 |
見てください。純益4.5億のうち、約99%が2025〜2026年に集中しています。そしてその時期は、複利でロットが平均26〜50枚(上限張り付き)まで膨れ上がった時期と完全に一致。
固定ロット(0.01)に換算した正直な実力値はこれだけです。
- 純益:約19万円相当
- PF:約1.41
4.5億とは桁が3つ違います。利益額の大半は「戦略が急に賢くなった」からではなく、複利でロットが大きくなった後に、たまたま大きな相場が当たった産物です。
「6.4年で4.5億」を見出しに使うのは、僕の基準では誇大広告です。だから自分では使いません。
見方のコツ:純益が「億」単位のEAを見たら、「これは複利?固定ロット?リスク%は何%?」を必ず確認する。 固定ロット換算の純益とPFを出せないEAは、額のマジックを疑っていい。
⑥ インサンプル/アウトオブサンプル ― 「過去に当てはめただけ」を疑う
最後の技術的なポイントです。これは少し上級者向けですが、知っておくと騙されにくくなります。
EAのフィルタやパラメータを「過去のチャートに一番ハマるように」調整しすぎると、過去だけは完璧に見えるのに、未知の相場ではまるで効かないことが起きます。これを過剰最適化(カーブフィット)と言います。
これを見破る考え方が、インサンプル/アウトオブサンプルです。
- インサンプル:EAを作る・調整するのに使った期間。ここで良いのは当たり前。
- アウトオブサンプル:調整に一切使っていない、EAにとって「初見」の期間。ここで成績が保てて初めて、本物の優位性と言える。
正直に書くと、Arseneは選別フィルタの自由度が高く、現状のバックテストは全期間がインサンプル(最適化に使った期間)の疑いを、まだ完全には排除できていません。だから僕は今もArseneを実戦投入していません。「過去にうまく当てはめた最良解」である可能性を、自分でまだ潰しきれていないからです。
唯一の有力な反証が、16年・4,361トレードを固定ロットで回しても破綻しなかったこと。もし単なるカーブフィットなら、16年もの長丁場で素の固定ロットがプラスを保てるはずがない。これは「優位性が本物である一定の証拠」だと考えていますが、決定打ではありません。
見方のコツ:「過去5年完璧でした」より、「最適化に使っていない期間でも成績が保てました」のほうが、何倍も価値がある。フォワードテスト(実口座での先出し検証)の有無も、同じ理由で重要です。
⑦ そして最後に、純益を見る
ここまで来て、初めて純益を見ます。①〜⑥を通した後の純益なら、「どういう条件で・どれだけのリスクを取って・どれだけ本物らしさがあって、その額なのか」が分かっているはずです。
逆に言えば、純益から見始めると、全部の判断がその額に引っ張られます。 「4.5億」を最初に見たら、その後にDD81%が出てきても「まあ億稼いでるしな」と脳が割引いてしまう。順番が、騙されないための防御です。
まとめ:「数字に騙されない」は、結局「順番」と「DD併記」
長くなったので、まとめます。
- 純益・綺麗なグラフから見ない。 期間→データ品質→相対DD→PF→複利の罠→インサンプル、の順に潰してから、最後に純益。
- 相対DDは最大DDより重要。 利益とDDは同じコインの裏表。利益だけ見せてDDを隠すのは事実の歪曲。
- 「億」は複利とロットが作る。 固定ロット換算とリスク%を必ず確認。
- 好調期の切り出し(チェリーピッキング)を疑う。 「なぜこの開始日?」と一度立ち止まる。
うちのブログでは、この基準を自分のEAにそのまま適用しています。だから純益を出すときは必ず同じ大きさでDDを併記するし、好調年だけを切り出して「1年で資産○倍」みたいな見せ方はしません。全期間・全部の数字を出すほうが、結果的に一番信頼される。それが12年やってきた自分のやり方です。
Arseneの「4.5億」を実際に自分で解剖した検証記録は、こちらにまとめてあります。この記事で説明した7つの見方が、実データでどう効いてくるかが分かると思います。
→ [Arsene検証記事へ(複利4.5億の解剖・決定版)]
→ [Arsene 16年バックテスト・破綻と頑健性の記事へ]
数字を盛らず、勝ちも負けも全部出す。続報も正直に書いていきます。
注記(必ずお読みください)
- 本記事に記載したバックテスト結果は、特定の検証条件(XMTrading実データ・XAUUSD・M1・モデリング品質99.9%・各開始年〜2026年6月・変動スプレッド)における過去の結果であり、将来の成果を保証するものではありません。
- 成績はリスク設定(ロット・リスク%)に比例して変動します。本記事の純益の大きな数字(4.5億・1.6億など)は、複利・高リスク%という極端な設定の結果であり、同じ設定でも開始年により破綻(元本喪失)に至った実例があります。
- FX・自動売買にはリスクが伴い、元本割れ(損失)の可能性があります。投資は自己責任で、必ず余裕資金の範囲で行ってください。
- 本記事は特定のEA・通貨・設定の売買を推奨するものではなく、バックテストの一般的な読み方と検証記録の共有を目的とした情報提供です。リスク設定の選択とその結果については、利用者ご自身の判断と責任に委ねられます。


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