FX歴12年、システムトレーダーのRYOです。
前回までの記事で、自分のゴールド(XAUUSD)裁量ロジックをEAにした「Arsene(アルセーヌ)」を、検証データを全部出して正直に解剖しました。優位性自体はプラスで確認できた。でも同時に、隠しようのない弱点も見えました。
- 上昇相場でしか稼げない。 レンジや下落が続くと、利益が出ない期間が年単位で続きうる。
- 高複利だとドローダウン(資産の落ち込み)が深い。 設定を攻めると相対DDが8割を超え、始めた年次第では口座ごと飛ぶ。
- ロング専用。 1,500トレード超が全部「買い」。金の上昇バイアスに乗っているだけ、とも言える。
今日は、この弱点に設計レベルで答えようとしている改良版「Noir(ノワール)」の開発記です。今どこまで来ているか、何をやっていて、何をまだ約束できないのか。途中経過を正直に書きます。
先に断っておくと、これは開発と検証の途中報告です。出てくる数値はすべて暫定で、確定値ではありません。それでも、考え方と現在地を共有します。
結論を先に:3つだけ
長くなるので、今日の要点を先に置きます。
- Noirは「勝てるEA」ではなく「勝てない時を知っているEA」を目指している。 Arseneのロジックはそのまま母体にして、苦手相場では戦わないフィルターを足した。ショートは足しません。
- 途中経過は手応えあり(暫定)。 フィルターをONにすると、苦手相場のドローダウンが目に見えて抑えられた。Arseneが破綻した条件(複利10%・2010年スタート)でも、Noirは生き残った。ただし複利の「億」は深いDDとセットなので、売り文句にはしません。
- でも、まだ世には出しません。 改良はまだ途中。検証が固まったら、勝ちも負けも全部見せた上で、公開していきます。今日はその予告です。
Arseneの弱点を、どう直そうとしているか
Arseneの一番大きな弱点は、はっきりしています。上昇相場専門機だということ。金が伸びる局面では強いけれど、下落やレンジでは優位性が薄く、高複利だとそこで深く沈む。
ここで普通のEA開発は、「もっと賢いロジックを足して、苦手相場でも勝てるようにする」方向に行きます。下落で稼ぐショートを足す、とか。
僕は、そこには行きませんでした。
理由は、12年やってきて確信に近いことが一つあるからです。ゴールドに「全期間勝てるロジック」は存在しない。 金は純粋なテクニカルだけでは動かない。金利、ドルの強弱、有事、中央銀行。こういうファンダの要素が局面ごとに主導権を握り合っていて、相場の”支配権”が突然入れ替わる。だから純テクニカルの機械ロジックは、どこかで必ず壊れます。
苦手な相場で無理に勝とうとするほど、ロジックは複雑になり、過去のチャートにだけ都合よく当てはめた最良解(カーブフィット)に近づく。これもほぼ法則だと思っています。
だからNoirの答えは逆向きです。
勝てる局面で稼ぎ、勝てない局面では戦わない。
苦手相場が来たら、賢く勝とうとするのではなく、EA自身が「今は自分の出る幕じゃない」と認めて手を引く。それが、Noirに足したレジームフィルターです。
| 相場 | Noirの振る舞い |
|---|---|
| 得意相場(上昇トレンド) | ロングでフル稼働(Arseneの押し目買い) |
| 苦手相場(レンジ・下落) | フィルターで取引を抑えて休む(損失を抑える) |
そして、ショートは足しません。 金は踏み上げ(急騰)でショートが一気に焼かれるリスクがある。下落で稼ぐより、下落では降りるほうが、堅牢で正直だと判断しました。
※ Noirが内部で「何を見て苦手相場と判定しているか」、そのしきい値や係数は、商品の中核なので書きません。ここで語るのは「なぜそういう設計にしたか(思想)」まで。「どう作るか(数値・式)」は出しません。
フィルターは「新しい聖杯」ではない、という話
ここは誤解されたくないので、はっきり書きます。
このフィルターは、「これさえあれば全部勝てる」という新しい必勝法ではありません。むしろ逆で、「聖杯は存在しない」という事実そのものを、コードに翻訳したものです。
「全期間勝てるロジックは無い」と言いながら「でもこのフィルターは完璧です」と言ったら、自分で自分を裏切ることになる。だから正直に書くと、フィルター自身も完璧ではありません。 相場の局面判定は、ファンダの転換を完全に先読みできるわけじゃない。実際、強い上昇相場では「念のため少し降りすぎて、取れたはずの利益をわずかに取りこぼす」過剰反応も出ています。
だから売り文句は、「苦手相場を完璧に避ける」ではなく、「ダメージを減らして、長生きする」。ここが正直ラインだと思っています。
- 世間の多くは「勝てるEA」を売る。
- うちが作っているのは「勝てない時を知っているEA」です。
この一点が、Noirという商品の核です。
途中経過(暫定):フィルターは効いている手応えがある
ここからが現在地です。数値はすべて暫定であることを、もう一度断っておきます。
一晩バックテストを回して比べたところ、フィルターのトレードオフはこういうバランスでした(固定ロット・XAUUSD・M1・同条件)。固定ロットは「賭け金を増やさない素の実力=健康診断」だと思ってください。
| 相場 | フィルターOFF | フィルターON | 何が起きたか |
|---|---|---|---|
| 得意相場(2020-2026) | 純益 +268,960 / 最大DD 8.83% | 純益 +269,826 / 最大DD 6.46% | 利益はほぼ維持したまま、DDが改善 |
| 苦手相場(2010-2019) | 純益 −54,347 / 最大DD 35.97% | 純益 −14,649 / 最大DD 18.04% | 損失もDDもおよそ半減 |
※数値は暫定(フィルター改良中・検証継続中)。検証条件:XAUUSD(GOLD)・M1・全ティック99.9%・初期証拠金20万・XMTrading実データ・変動スプレッド。
見てほしいのは右側です。得意相場(2020-2026)では、フィルターONでも純益はほぼ変わらず(むしろ微増)、DDだけ改善した。一方、苦手相場(2010-2019)では、損失もドローダウンもおよそ半分に減りました。
これがフィルターの正体=保険です。得意相場の利益はほぼ取りこぼさずに、苦手相場のダメージを抑える。(ちなみに、もっと強い上昇相場だけを切り出すと、フィルターONは純益が約1.3%だけ減ります。これが「念のため降りすぎる」保険料の正体。僕は払う価値のある保険料だと思っています。)
そして、一番はっきり差が出たのがこれです。前回のArseneの記事で「複利10%・2010年スタートで口座が破綻して退場した」話を書きました。まったく同じ条件で、NoirのフィルターをON/OFFして比べました。
| フィルター | 相対ドローダウン | 結末 |
|---|---|---|
| OFF | 100.08% | 破綻(口座が飛んで全額消失) |
| ON | 96.06% | 生存 |
※数値は暫定。複利10%・2010年スタート・XAUUSD・M1・同条件。
フィルターOFFは、Arseneと同じく口座が飛びました。フィルターONは、同じ複利10%・同じ2010年スタートでも生き残った。 フィルターが、破綻と生存を分けたわけです。
ただし、ここで盛りたくなる気持ちは抑えます。フィルターONの「生存」した側の純益は、複利16年で回すと理論上「億」単位になります。でも、その億には相対DD96%という札が貼り付いている。 資産が一時的に9割以上消える局面を通り抜ける、という意味です。耐えられる人はまずいない。
だから、Arseneと同じルールをNoirでも徹底します。「複利の億」は、売り文句にしません。 相対DD96%を隠して億だけ見せるのは、事実の歪曲だからです。「生存」が意味するのは「破綻しなかった」であって、「億を安全に手にできる」ではありません。
僕が本当に主役に据えたいのは、賭け金を抑えた実力値のほうです。固定ロットなら16年回してもプラスを保ち、最大DDは18%台。保守的な低リスク複利でも、16年で相対DDを30%台に抑える着地点が見えています(具体的なリスク%は、検証確定後に「設定ごとにリスクがこう変わる」という事実対照の形でだけ出します)。派手な複利ではなく、最悪期を生き延びる実力値。それがNoirの見せたい顔です。
なぜ「完成間近」なのに、まだ出さないのか(開発スピードの正直な話)
ここは、誤解を招きやすいので正直に書いておきたいところです。
ArseneからNoirまで、僕はかなり急ピッチで開発しています。自分の12年のロジックが土台にあるうえ、実装(コーディング)の部分でAIの力を借りているので、試行錯誤のサイクルが普通より圧倒的に速い。だから「完成間近」と言える段階まで、短期間で来ました。
ただ、ここで勘違いしてほしくないことがあります。
本来、EA開発はこんなに速くありません。 ロジックの着想から、実装、検証、改良まで、まともにやれば何ヶ月、ものによっては年単位かかる仕事です。
僕の開発が速いのは、ロジックそのものが12年かけて自分の中に蓄積されていたことと、実装をAIで高速化していること、この2つの掛け算だからです。ゼロから魔法のように湧いてきたわけではないし、スピードが出ているからといって、品質が保証されるわけでもありません。
むしろ逆で、開発が速いときほど、検証を雑にやると一瞬で破綻します。 だから僕は、開発スピードと検証スピードをわざと切り離しています。 作るのは速くていい。でも「世に出していいか」を判断する検証ゲートだけは、一切妥協しません。
正直に現在地を言うと、Noirはまだ途中です。
- 数値はすべて暫定。 今まさにフィルターを改良している最中で、特に「2013〜2015の震源にあたる深いドローダウン」を、フィルターがまだ完全には捕まえきれていません。
- フィルターの優位が「たまたま」でないか(期間を分けてもON有利が一貫するか)は、引き続き確認中。カーブフィットの再来だけは避けたい。
- 手数料(コミッション)の反映など、検証条件の詰めも残っています。
- 配布時の既定値(フィルターON/OFFどちらで出すか)、推奨リスク設定も、検証が固まってから決めます。
「完成間近で、急いで作って、すぐ出す」――そういうEAを、僕は一番疑っています。だからNoirは、完成間近でも、検証が固まるまで出しません。 速く作れたことと、世に出していいことは、別の話です。
これからの約束:全部見せた上で、公開していく
最後に、これからのことを。
Noirは、検証が固まり次第、正式な検証レポートとしてこのブログで続報を出します。 そのとき僕がやるのは、いいところだけ切り出して見せることではありません。
- 勝ちも負けも出す。 苦手相場(2010年代)のマイナスも、隠さず主役にします。むしろ、みんなが負ける弱気相場でフィルターがどう守るかこそ、Noirの一番の見せ場だからです。
- DDを必ず併記する。 純益だけを単独で出すことはしません。「億」の裏に貼り付いたドローダウンまで、毎回セットで見せます。
- チェリーピッキングはしない。 好調な直近だけを切り出して「こんなに勝てます」とは見せません。基準は常に「長期で破綻しないか」に置きます。
- 改良の試行錯誤も出す。 うまくいかなかった調整も、そのまま開発記として書きます。
そのうえで、検証を全部見せたあとに、Noirをどう世に出していくかを案内していく予定です。ただし、配布の具体的な条件(誰に、どういう形で渡すか)は、まだ決めていません。 ここは確認すべきことが残っているので、検証が固まってから、あらためてきちんと案内します。今日の段階で「こうすれば手に入ります」とは、まだ書きません。順番を守りたいんです。まず検証を全部見せる。話はそれからです。
Noirが目指しているのは、「全部勝てるEA」ではありません。「自分が勝てない相場を知っていて、そこでは無理をしないEA」です。地味ですが、長く生き残るのは、たぶんこっちだと思っています。
数字が固まり次第、続報を出します。勝ちも負けも、破綻も、改良の試行錯誤も、全部正直に。それが12年やってきた自分のやり方です。
注記(必ずお読みください)
- 本記事は開発・検証の途中経過の共有であり、記載した数値はすべて暫定(フィルター改良中・検証継続中)です。確定値ではありません。
- ArseneおよびNoirの戦略・ロジックはRYO自身が12年の経験から構築したもので、実装(コーディング)にAIを活用していますが、AIが戦略を作ったものではありません。
- 記載したバックテスト結果は、特定の検証条件(XMTrading実データ・XAUUSD・M1・モデリング品質99.9%・各期間・変動スプレッド)における過去の結果であり、将来の成果を保証するものではありません。
- 成績はリスク設定(ロット・リスク%)に比例して変動します。本記事中の複利の大きな数字は高リスク設定の結果であり、同じ設定でも開始年・相場により破綻(元本喪失)に至った実例があります(相対ドローダウン96〜100%超)。特定の設定で特定の利益を達成できることを示すものではありません。
- FX・自動売買にはリスクが伴い、元本割れ(損失)の可能性があります。投資は自己責任で、必ず余裕資金の範囲で行ってください。
- 本記事は特定のEA・通貨・設定の売買を推奨するものではなく、検証記録の共有を目的としています。リスク設定の選択とその結果は、利用者ご自身の判断と責任に委ねられます。


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