FX歴12年、システムトレーダーのRYOです。
これは、ゴールド自動売買EA「Arsene(アルセーヌ)」の番外編です。決定版の記事で「複利はいつ始めるかで結末が真逆になる」「高複利は諸刃の剣」という話を書きました。今日はその続きとして、僕がこれまで触った中で一番危険な設定を、わざと正面から見せます。
先に断っておきます。これは特殊条件の切り出しです。2024年という、金が歴史的に一方通行で上がった好調期だけを開始日にして、現実にはまず誰も設定しない複利50%(残高の半分を毎回リスクに張る)で回した、極端なシミュレーション。普段なら基準にしてはいけない、と僕自身が決定版で書いた類の数字です。
それを今日あえて出すのは、「凄いでしょ」を見せたいからではなく、「これがどれだけ危険か」を解剖したいからです。派手な数字は、警告の教材としてこそ価値があります。最後まで読めば、「6.77億」という数字を二度と素直に信じられなくなるはずです。
Arseneは販売していません。これは検証記録です。数字は盛らず、勝ちも、破綻も、全部出します。
結論を先に:この6.77億から学ぶべき3つの警告
長くなるので、結論から置きます。
- 「破綻していない」は罠。 バックテストは最後まで回りきっていますが、その途中で資産の95.7%が消えた瞬間がありました。現実なら、まず確実にマージンコール(強制ロスカット)で退場しています。「破綻しない」のは、シミュレーションの中だけです。
- リスクを上げても、もう増えない。 複利を30%→50%へ上げても、純益は+6.23億→+6.77億で、たった+9%しか伸びていません。なのにドローダウン(DD)は78%→95.7%まで激増します。「リスクを上げるほど儲かる」は、途中から完全に嘘になります。
- 2024年だから生き残れただけ。 これは金が一方通行で上げた特殊な年の切り出しです。開始が1年ズレていれば、即破綻していた可能性が高い。決定版で書いた通り、同じArseneの複利10%は、2010年スタートでは実際に口座が破綻(退場)しています。
ここから、数字で解剖していきます。
まず数字を出す(純益とDDは必ずセットで)
今日扱う番外編の検証条件と結果です。好調年(2024年〜)開始・約2.4年という、意図的に切り出した特殊条件であることを、最初に明示しておきます。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 通貨ペア | GOLD(XAUUSD) / 実データ |
| 時間足 | M1(1分足) |
| データ品質 | モデリング99.90%(全ティック)/ 不整合エラー0 |
| 期間 | 2024年1月〜2026年5月(約2.4年)= 金の歴史的上昇局面だけを切り出し |
| 勝率 / 取引数 | 71.6% / 708トレード |


そのうえで、複利30%と複利50%の結果です。純益だけを見ないでください。右の相対DDを、同じ大きさで必ず見てください。
| 設定 | 純益 | 相対ドローダウン | PF | DDの意味 |
|---|---|---|---|---|
| 複利30% | +6.23億 | 78.30% | 1.73 | 資産の約8割が一度消える |
| 複利50% | +6.77億 | 95.72% | 1.75 | 資産の95.7%が一度消える |
「6.77億」だけを切り取れば、確かに夢のような数字に見えます。でも、その数字には「相対DD95.72%」という札が必ず貼り付いています。 相対DD95.72%とは、運用の途中で、口座資産がほぼ全部(95.7%)一時的に消し飛んだ瞬間があるという意味です。100万円が4万円台まで溶けた、ということです。
僕は純益を出すとき、必ず同じ視認性でDDを併記します。片方(億)だけ見せて、もう片方(ほぼ全損の瞬間)を隠すのは、事実の歪曲だからです。
警告1:「破綻していない」のは、シミュレーションの中だけ
ここが、この番外編で一番怖いところです。
「相対DD95.72%でも、バックテストは最後まで回って6.77億になったんだから、結果オーライでは?」と思うかもしれません。そこが罠です。
バックテストは、口座資産が4%まで減っても、淡々と次のトレードを続けます。証拠金維持率もマージンコールも、過去データの上では「死なない」。だから数字の上では生き残り、最終的に6.77億まで戻せた。
でも、現実の口座では、そうはいきません。
- 資産が95.7%減る過程で、証拠金維持率はとっくにロスカット水準を割ります。現実なら、その瞬間に強制決済=退場です。
- そこまで耐える前に、人間の心が折れます。資産が10分の1以下になっていく口座を、黙って眺め続けられる人はまずいません。
- 一度退場すれば、その後の「6.77億への回復」は二度と訪れません。回復曲線は、退場しなかった人だけが受け取れる、たらればです。
つまり、「破綻していない6.77億」は、「途中で確実に退場する人を、退場しなかったことにして計算した数字」です。相対DD95.72%という札は、「この設定は現実では生き残れない」という警告そのものなのです。
警告2:リスクを上げても、もう増えない(むしろDDだけが増える)
次に、決定版で書いた「利益とDDは表裏一体」という話の、その先を見せます。
普通、「複利%を上げるほど純益も増える」と思いますよね。決定版で見た低〜中リスク帯では、確かにそうでした。でも、高リスク帯まで来ると、その関係が壊れます。
| 設定 | 純益 | 相対DD |
|---|---|---|
| 複利30% | +6.23億 | 78.30% |
| 複利50% | +6.77億(+9%しか増えない) | 95.72%(+17.4ポイント激増) |
リスクを30%から50%へ、1.7倍に引き上げたのに、純益はたった+9%しか伸びていません。一方でDDは78%から95.7%へ跳ね上がる。「払うリスク」だけが倍増して、「もらえる利益」はほぼ横ばいです。
なぜこうなるのか。一つには、EAには張れるロット数に上限(MaxLots)があり、ある水準を超えると、いくらリスク%を上げても張れる量が頭打ちになるからです。上限に当たれば、純益はそれ以上ほとんど伸びない。なのにDD(負ける局面での沈み込み)だけは、リスク%を上げた分だけ深くなり続ける。
結論はシンプルです。「リスクを上げるほど儲かる」は、ある地点から先は完全な嘘になります。 高リスク帯では、増えるのは利益ではなく、退場の確率だけです。
警告3:2024年だから生き残れただけ(1年ズレれば即破綻)
そして、この番外編の数字が成立している、最大の前提条件。
これは「2024年スタート」という、金が歴史的に一方通行で上げ続けた、極めて特殊な好調期だけを切り出したものです。Arseneは「ゴールドの上昇相場をロングだけで刈り取る」設計のEAなので、金がほぼ下げずに上げ続けた2024年〜は、Arseneにとって最も都合のいい相場でした。だから複利50%という無茶な設定でも、結果的に生き残れた。
では、もし開始が1年でもズレていたら?
決定版で出した事実を、もう一度ここに置きます。
同じArseneの複利10%(今日の50%よりずっと控えめな設定)を、2010年スタートで回したら、口座は破綻して退場しました。
複利10%ですら、開始年が悪ければ破綻するのです。今日の複利50%を、不調期を含む期間で回したら、どうなるか。上昇相場にたどり着くずっと前に、確実に退場します。
複利は「前の残高に掛け算」で増える仕組みなので、「いつ、どの残高で、上昇相場を迎えるか」という順序に全面的に依存します。2024年スタートの6.77億は、Arseneの実力ではなく、「金が一方通行で上げた好調年を、たまたま開始日に引き当てた」という運の産物です。
好調年だけを切り出して、そこに高リスクを乗せて見せる。 これが、EA・投資商品の世界で最も危険な見せ方です。不調期も、破綻の事実も、全部消えて、数字だけが一人歩きする。だから僕は、こういう数字を「達成できる利益」としては絶対に出しません。今日のように「これは罠だ」と解剖する教材としてだけ、出しています。
まとめ:6.77億は「目標」ではなく「警告灯」
番外編として、一番危険な設定をわざと正面から見せました。最後に、持ち帰ってほしいことを3行で。
- 「破綻しない6.77億」は、途中で資産の95.7%が消えた数字。 現実なら、その瞬間に退場している。生き残りは、シミュレーション上のたられば。
- リスク30%→50%で利益は+9%、DDは+17.4ポイント。 高リスク帯では「上げるほど儲かる」は嘘。増えるのは退場確率だけ。
- 2024年という好調年を引いただけ。 同じEAの複利10%は2010年スタートで実際に破綻している。1年ズレれば結末は真逆。
決定版でも書いた通り、Arseneで唯一「いつ始めても破綻しなかった」のは、派手さのない固定ロットでした(16年・4,361トレードで破綻なし/相対DD33.42%・PF1.08)。好調年×高複利の派手なグラフでは絶対に出せない、この地味な頑健性こそが本当の信頼資産だと、僕は考えています。
6.77億という数字は、追いかける目標ではありません。「ここまでリスクを上げると、現実では確実に死ぬ」という、赤く点滅する警告灯です。そう読めるようになって初めて、この番外編は役に立ちます。
注記(必ずお読みください)
- 本記事に記載したバックテスト結果は、特定の検証条件(実データ・XAUUSD・M1・モデリング品質99.9%・2024年1月〜2026年5月という好調期のみを切り出した約2.4年・変動スプレッド)における過去の結果であり、将来の成果を保証するものではありません。
- 本記事の純益(+6.23億・+6.77億)は、複利30%・50%という非現実的に高いリスク設定かつ好調年だけを開始日とした特殊な切り出しの結果であり、達成可能な利益として提示するものではありません。相対ドローダウン78.30%・95.72%が示す通り、現実の口座では運用途中で元本のほぼ全額を喪失(強制ロスカット・退場)する可能性が極めて高い設定です。
- 同じEAでも開始年やリスク設定により破綻(元本喪失・口座退場)に至った実例があります(複利10%・2010年スタートで破綻)。
- FX・自動売買にはリスクが伴い、元本割れ(損失)の可能性があります。投資は自己責任で、必ず余裕資金の範囲で行ってください。
- 本記事は特定のEA・通貨・設定の売買を推奨するものではなく、高リスク設定の危険性を伝える検証記録の共有を目的としています。リスク設定の選択とその結果については、利用者ご自身の判断と責任に委ねられます。


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