FX歴12年、システムトレーダーのRYOです。
これまでこのブログで、ゴールド(XAUUSD)の自動売買EA「Arsene(アルセーヌ)」について、強さも弱さも数字で正直に出してきました。設計思想の記事では「Arseneはロング(買い)専用で、下落・レンジが苦手」とハッキリ書きました。
でも、よく考えると――「下落が苦手」と言葉で書くだけで、実際に金が下げた局面でArseneがどれだけ苦しんだのか、具体的な数字をまだ主役にして出していなかった。これは片手落ちだと思いました。強さ(上昇相場での好成績)は何度も見せてきたのに、弱さの「現場」を正面から見せていない。
なので今日は、わざと弱点を主役にします。テーマはひとつ。「ゴールドが下落・低迷した相場で、ロング専用のArseneは具体的にどうなったのか」。隠さず、全部出します。
先に言っておくと、これはArseneを擁護する記事ではありません。むしろ逆で、このEAの構造的な急所を、自分の手で抉り出す記事です。そして、その急所が、いま僕が「休む」改良版を作っている理由に、そのまま繋がっていきます。
Arseneは販売していません。これは検証記録です。数字は盛らず、負けも正直に出します。
結論を先に:ロング専用は「下げでは何もできず、ただ削られる」
長くなるので、結論から置きます。
- 下落相場で、Arseneは”負ける”のではなく”成立しない”。 ショートを一切撃たない設計なので、金が下げ続ける局面では、本来狙うべき「上昇の押し目」自体が現れない。下げで稼ぐ手段がそもそも無い。これがロング専用の構造的な急所です。
- 本当に怖いのは「下落そのもの」より「下落を押し目と誤認する瞬間」。 下落トレンドへの転換初動を「いつもの押し目」と勘違いして買い、そのまま下げ続けられると、損切りの大きい非対称設計(高勝率・低リスクリワード)が裏目に出て、コツコツの利益がドカンと削られる。
- だから「全期間PF1.08」という薄さは、下落・低迷期に稼げないことの裏返し。 上昇相場のPF1.52という強さと、全期間PF1.08という薄さの差は、ほぼ全部この「下げで稼げない期間」が食っています。
ここから、具体的な相場局面で見ていきます。
前提:ゴールドは「ずっと上げてきた」わけではない
Arseneは「ゴールドの長期上昇バイアスに乗る」設計です。でも、金が一直線に上げ続けてきたわけではありません。ここを誤解している人が多いので、先に確認します。
金には、ハッキリした「冬の時代」がありました。
- 2011年9月、金は当時の史上最高値を付けて天井を打つ。 そこから長い下落・低迷トレンドに転換しました。
- 2013年には、歴史的な急落がありました。短期間で大きく値を崩した、ゴールドのベア(下落)相場を象徴する局面です。
- その後も2015年あたりまで、金は数年がかりで下げ・低迷を続けました。「金は買っておけば上がる」という発想が、最も通用しなかった時期です。
Arseneは「上昇相場の押し目をロングで刈り取る専門機」です。では、この上昇相場が”無かった”数年間、専門機は何をしていたのか。ここが今日の本題です。
弱点1:下げ相場では、そもそも「仕事が無い」
まず一番根本的な話から。下落トレンドが続く相場で、Arseneがどう振る舞うか。答えは拍子抜けするくらいシンプルです。「やることが無い」んです。
Arseneは、上昇の流れの中の一時的な押し目を買う設計です。ということは、そもそも”上昇の流れ”が存在しない下落相場では、買うべき押し目という対象が現れにくい。多段フィルタ(設計思想の記事で書いたアンサンブル)が「これは上昇トレンド中の押し目ではない」と判断すれば、エントリーを見送ります。
これ自体は、設計通りの正しい挙動です。「下げ相場なのに無理やり買い続けて自爆する」のではなく、ある程度は「見送る」。設計思想の記事で「押し目買いの本質は、どの押し目を見送るかだ」と書いた、あの選別が効く。
でも――ここに、ロング専用の決定的な弱点が現れます。
ショート(売り)を撃てる戦略なら、下落相場は「下げで稼ぐチャンス」です。でもArseneは構造的にショートを1件も撃ちません(過去の全バックテストで、全トレードが買い/ショートはゼロ)。つまり、下落相場でArseneにできることは、せいぜい「傷を浅くする(見送る)」ことだけで、”稼ぐ”という選択肢が最初から存在しない。
これが、検証記事でずっと出してきた数字の正体です。
- 直近の上昇相場(2022年〜):固定ロットでPF1.52・勝率64.78%
- 全期間(2010年〜の16年):固定ロットでPF1.08・勝率54.55%
この1.52 → 1.08 という落差は、Arseneが急に下手になったわけではありません。「下げで稼げない期間(2011天井〜2015低迷など)」が、全期間の平均をゴリゴリ削っているから、こうなる。PF1.08という薄さは、まさに「下落・低迷期に何もできない」というロング専用の弱点が、数字として現れたものです。
弱点2:本当に怖いのは「下落初動の押し目誤認」
「見送るだけなら、損はしないんじゃないの?」と思うかもしれません。ここが甘い。ロング専用EAが下落相場で本当に傷を負うのは、”見送りきれなかった”瞬間です。
一番危険なのが、上昇トレンドから下落トレンドへの「転換の初動」です。
考えてみてください。2011年9月のように、長く上げてきた金が天井を打って下げ始める瞬間。その下げの初動は、それまで何度も成功してきた「いつもの押し目」と、見た目がそっくりです。「また下げた、押し目だ、買いだ」――Arseneのフィルタが、この下落初動を「上昇トレンド中の押し目」と誤認してエントリーしてしまうことがある。
そして、買った直後に、相場が押し目ではなく本物の下落トレンドへ転換していたら、どうなるか。
ここで、Arseneの非対称設計(高勝率・低リスクリワード=利確は小さく、損切りは相対的に大きい)が、完全に裏目に出ます。
- 上昇相場では、この設計は「こまめに高勝率で勝つ」強みになる。
- でも下落トレンドに掴まると、「たまに来る大きめの損切り」が連続して襲ってくる。設計思想の記事で「この非対称型はコツコツドカンになりやすい」と正直に書きましたが、その”ドカン”が最も牙を剥くのが、まさにこの下落転換局面です。
高勝率設計は、勝率が高く保てる限りで成立します。下落トレンドという「押し目買いが構造的に効かない地合い」では、その勝率の前提が崩れる。コツコツ積んだ利益が、下落初動の数回の大きな損切りで吹き飛ぶ。これが、ロング専用EAが下落相場で負う傷の正体です。
弱点3:固定ロットでも「年単位で報われない」期間が続く
下落・低迷相場のもう一つの現実的な苦しさは、「派手に死ぬ」のではなく「じわじわ報われない」ことです。
決定版の記事で、固定ロットの年次を見たとき、こういう事実が出ていました。
- 2021年は明確な負け年(固定ロット換算でマイナス)。
- 2022〜2023年は、ほぼ横ばい(ちょっとプラス、ちょっとマイナスを行き来)。
- 優位性がハッキリ出るのは、金が歴史的に上げた2024年以降。
2011〜2015年のような本格的な下落・低迷局面なら、これがもっと長く続く可能性があります。固定ロットで運用していれば、口座が破綻するような派手な事故にはなりにくい(だから僕は固定ロットを推しています)。でも、「回しているのに、何年もほとんど増えない」という状態が続きうる。
これは、心理的にかなりキツいです。検証記事で「期待値が現れるには十分な試行回数が要る」「感情で止めない範囲のリスク量で回せ」と書きましたが、その忍耐が最も試されるのが、この”報われない低迷期”です。上昇相場が来るまで、何もせず(あるいは小さく負けながら)待ち続けられるか。Arseneを使うということは、この「冬の時代を耐える覚悟」とセットだ、ということです。
まとめ:弱点を隠さないからこそ、次の一手が見える
今日は、Arseneの弱点――下落・低迷相場での無力さ――をわざと主役にしました。要点をまとめます。
- 下げ相場でArseneは”負ける”のではなく”成立しない”。 ショートを撃たないので、下げで稼ぐ手段が構造的に存在しない。できるのは「見送る」ことだけ。
- 本当に怖いのは下落初動の押し目誤認。 下落転換を「いつもの押し目」と勘違いして買うと、非対称設計(高勝率・低RR)の”ドカン”が最も牙を剥く。
- 全期間PF1.08という薄さは、この「下げで稼げない期間」が平均を削った結果。 上昇相場のPF1.52との落差が、弱点の大きさを示している。
- 固定ロットなら破綻はしにくいが、年単位で報われない冬の時代を耐える覚悟が要る。
ここまで弱点を抉り出してきて、当然、僕の中に残る問いがあります。「下げ相場で、ただ削られながら見送り続ける――この状態を、戦略として放置していいのか?」
正直、よくないと思っています。上昇相場専門に振り切ったからこそ、下げで何もできないのは、設計上の宿題として最初から分かっていたことです。だから今、「下げ・レンジでは賢く休み(あるいは下げ局面に対応する)、上げで稼ぐ」という方向の全天候型改良版「Noir(ノワール)」を開発しています。
今日の記事で見せた「下落初動の押し目誤認」「報われない低迷期」を、フィルタで減らせないか。それがNoirで試している中身の一つです。Noirがそれを実際にできているかは、できてから検証データで正直に出します(販売うんぬんはまだ先の話で、今は開発と検証の途中経過です)。今日はあくまで、その出発点である「Arseneの下落弱点」を、隠さず主役にして見せる回でした。
弱点を隠したEAは、ユーザーが「いつ警戒すべきか」を判断できません。苦手な相場を正直に出すからこそ、使う側も、作る僕自身も、次に何をすべきかが見える。 これが、12年やってきた自分のやり方です。
注記(必ずお読みください)
- 本記事はArseneの弱点(ロング専用ゆえの下落・低迷相場での挙動)の共有を目的としたもので、具体的なパラメータ・しきい値・内部ロジックの数式は開示していません。
- 本記事で触れたバックテスト結果(固定ロットのPF1.52・PF1.08・勝率・年次の負け年/横ばいなど)は、特定の検証条件(XMTrading実データ・XAUUSD・M1・各期間・変動スプレッド・モデリング品質99.9%)における過去の結果であり、将来の成果を保証するものではありません。2011年・2013年等の相場局面に関する記述は、Arseneの構造的な弱点を説明するための一般的な相場背景であり、その期間の個別成績を達成可能な利益として提示するものではありません。
- 改良版「Noir」は開発・検証中であり、効果(下落・レンジ相場での損失抑制)が確認できたものではありません。
- FX・自動売買にはリスクが伴い、元本割れ(損失)の可能性があります。投資は自己責任で、余裕資金の範囲で行ってください。
- 本記事は特定のEA・通貨の売買を推奨するものではなく、検証記録の共有を目的としています。


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