FX歴12年、システムトレーダーのRYOです。
これまでこのブログでは、自分の12年の裁量ロジックを詰め込んだゴールド(XAUUSD)の自動売買EA「Arsene(アルセーヌ)」の検証結果を、数字で正直に出してきました。「派手な4.5億の裏に相対ドローダウン81%がある」とか、「同じ複利10%でも始めた年で+1.6億と破綻に分かれる」とか。数字を解剖する話が中心でした。
今日は趣向を変えて、その手前にある「なぜそういう形のEAになったのか」という設計思想だけを話します。なぜゴールドなのか。なぜロング(買い)専用なのか。なぜ押し目のスキャルピングなのか。なぜ単一ロジックではなく「5つの戦略のアンサンブル」なのか。
最初にひとつお断りしておきます。この記事では、エントリーの具体的なしきい値や、内部の判別ロジックの数式は一切書きません。 そこはArseneの中身そのものなので守ります。書くのは「なぜそう考えたか」という思想のレイヤーまで。レシピ(具体的な数値)は出しませんが、思想は全部出します。そこを読んで「考え方には筋が通っているな」と思ってもらえたら十分です。
Arseneは販売していません。これは検証と思想の記録です。
大前提:「全期間・全相場で勝てる聖杯」は無い、と僕は思っている
▼ 実際のバックテストレポート(運用パラメータのみ白塗りで非公開)

設計思想の話をする前に、僕が12年やってきて一番強く持っている前提を先に置かせてください。これがArseneの形を全部決めているからです。
「いつでも・どんな相場でも勝てる万能のロジック(聖杯)は、存在しない」
これは諦めではなくて、12年の実感です。トレンドで稼ぐロジックはレンジで削られる。レンジで稼ぐロジックはトレンドで吹き飛ぶ。順張りと逆張りは、得意な相場が真逆。ひとつのロジックで全部の相場をカバーしようとすると、たいてい「どの相場でも中途半端」になります。
だから僕の設計思想は、最初からこうです。
万能を狙わない。「自分が一番分かっている相場の、一番おいしい局面」だけを、深く刈り取る専門機を作る。
Arseneは万能EAではありません。前の記事でも書いた通り、全期間で均すと素の優位性は薄い(PF1.08)。でもそれは「失敗」ではなく、最初からそういう設計思想で作ったから、そうなっているんです。「全部の相場で勝とう」とは、そもそも思っていない。
では、僕にとっての「一番分かっている相場の、一番おいしい局面」とは何だったか。それが、ゴールドの・上昇局面の・押し目、でした。ここから一つずつ、なぜそうなのかを話します。
なぜ「ゴールド」なのか
数ある銘柄の中で、なぜXAUUSD(ゴールド)を選んだか。理由は3つあります。
1. 自分が12年で一番時間を使ってきた銘柄だから。
身も蓋もないですが、これが一番大きい。EAというのは結局、自分の中にある「相場観」を機械に翻訳する作業です。翻訳元になる相場観が薄い銘柄でEAを作っても、ろくなものになりません。僕がチャートを見て「あ、この形は来る」と体で分かるのは、長年張り付いてきたゴールドでした。知らない銘柄で器用なEAを作るより、知り尽くした銘柄で愚直なEAを作る方がいい。 これが出発点です。
2. ボラティリティ(値動きの大きさ)がスキャルピングと相性がいい。
ゴールドは1日の値幅が大きく、短い時間でも値が動きます。後で話す「押し目スキャル」という小さく取る戦法は、そもそも値が動いてくれないと成立しません。値動きが乏しい銘柄でスキャルをやると、コスト(スプレッド)負けします。ゴールドの素直な荒さは、スキャルの燃料になります。
3. 長期的に「上がってきた」歴史を持つ資産だから。
これは次の「ロング専用」の話に直結します。ゴールドは、通貨の価値が薄まっていく長い時間の中で、資産の逃避先として買われ続けてきた歴史があります。もちろん下がる時期も横ばいの時期もありますが、超長期で見たときの基調は「上」でした。この非対称な性質(上方向に偏ったバイアス)を、戦略の土台に使えると考えました。
ここで誠実に補足します。「上がってきた歴史がある」は、「これからも上がり続ける」を保証しません。歴史的なバイアスを土台にすること自体が、ひとつの賭けです。だからこそArseneは「上昇相場に依存する」という弱点を構造的に抱えています。それは検証記事で正直に出してきた通りです。強みの源泉と、弱みの源泉は、同じ場所にある。 それを分かった上で、この土台を選びました。
なぜ「ロング(買い)専用」なのか
Arseneは全トレードが「買い」で、売り(ショート)は構造的に1件もありません。「片方しかやらないなんて、機会を半分捨てている」と思う人もいると思います。でも、これは意図した設計です。
理由は、さっきの「ゴールドの長期上昇バイアス」と「聖杯は無い」という前提から、自然にこうなります。
理由1:得意な方向に絞った方が、エッジ(優位性)が濃くなる。
上昇バイアスのある資産で「買い」を狙うのは、追い風の方向に走るようなものです。一方、同じ資産で「売り」を狙うのは、長期の地合いに逆らう向かい風になりやすい。同じロジックの完成度でも、追い風方向の方が勝ちやすい。だったら、自分が一番自信のある「買いの押し目」だけに全リソースを集中させた方が、薄く広げるより濃いエッジが残ると判断しました。
理由2:買いと売りは、本来「別のロジック」であるべきだから。
これが重要です。上昇相場の押し目買いと、下落相場の戻り売りは、ただ符号を反転させれば成立するものではありません。相場の崩れ方は、上げと下げで非対称です(下げの方が速く深い、いわゆる「上げ100日、下げ3日」)。だから、買いロジックを単純に裏返して売りに使うと、たいてい機能しません。中途半端な両刀使いより、片方の専門家。 これも「聖杯は無い」という前提の帰結です。
理由3:弱点が明確になり、正直に開示できるから。
ロング専用だと、「下落・レンジが続く相場は苦手」という弱点がハッキリします。これはデメリットに見えて、実はメリットだと思っています。苦手な相場が明確なEAは、ユーザーが「いつ警戒すべきか」を判断できる。 「全部の相場でいけます」と言うEAより、「これは上昇相場専門で、下落は苦手です」と言うEAの方が、長期では信頼できる。僕はそう考えています。
もちろん、この設計には宿題があります。下落・レンジ相場でただ削られ続けるのを、戦略として放置していいのか。その問いへの答えが、いま開発中の全天候型「Noir(ノワール)」です(得意相場=ロング/苦手相場=休む、という方向で試行錯誤中)。Arseneは「上昇専門に振り切った第一形態」で、その専門性ゆえの弱点を次でどう埋めるか、という流れになっています。
なぜ「押し目」を「スキャルピング」で狙うのか
方向(ロング)が決まったとして、「ではどう入るか」です。Arseneは、上昇トレンドの中の押し目(一時的な下げ)を、スキャルピング(小さく素早く取る)で狙います。これにも理由があります。
なぜ押し目なのか:高値掴みを避け、リスクリワードを良くするため。
上昇相場だからといって、どこでも買えばいいわけではありません。勢いよく上がりきった天井で買えば、その後の小さな下げで損切りに引っかかる。逆に、上昇の途中で一時的に下げた「押し目」で買えば、より有利な価格で、トレンドの再開に乗れる。同じ「買い」でも、入る場所で勝率は大きく変わります。Arseneは「上昇の中の押し目だけを拾う」ことで、入口の質を上げています。
ただし、押し目には罠があります。「押し目だと思ったら、そのまま下落トレンドへの転換だった」というケース。これを避けるための選別が、後で話す「多段フィルタ/アンサンブル」の役割です。押し目買いの本質は「どこで買うか」より「どの押し目を見送るか」だと、僕は12年やって思っています。
なぜスキャルピング(小さく取る)なのか:上昇相場依存のリスクを、時間軸で薄めるため。
これは少し逆説的に聞こえるかもしれません。「上昇相場に乗るなら、大きく利を伸ばせばいいじゃないか」と。でも僕は逆を選びました。利確は小さく、こまめに勝つ。理由は、ポジションを長く持つほど「相場が変わるリスク」に晒される時間が増えるからです。
ゴールドの上昇は永遠ではありません。いつ崩れるか分からない。だから、おいしい押し目で入って、利が乗ったらサッと抜ける。一回あたりの利益は小さくても、有利な押し目で高い勝率を積み重ねる。これが「相場が変わる前に利益を確定し続ける」という、スキャルピングの守りの発想です。Arseneが「利確は小さく・損切りは相対的に大きい」という非対称型(高勝率・低リスクリワード)になっているのは、この思想の結果です。
念のため誠実に書くと、この非対称型(高勝率・低RR)には弱点があります。たまに来る大きめの損切りで、コツコツ積んだ利益がドンと削られる「コツコツドカン」の形になりやすい。だからこそ、入口(押し目の選別)の精度が生命線になります。勝率を高く保てる限りで成立する設計で、選別が甘くなった瞬間に崩れる。そこは隠さず書いておきます。
なぜ「単一ロジック」ではなく「複数戦略のアンサンブル」なのか
ここが、Arseneの設計思想の中核です。
「上昇相場の押し目を、高勝率のスキャルで取る」――ここまでは方針です。問題は、「良い押し目」を、どうやって機械に判定させるか。ここで僕が採ったのが、単一のルールに頼らず、複数の戦略を組み合わせる「アンサンブル」という考え方でした。
アンサンブルとは何か(一般的な概念として)
アンサンブルというのは、もともと機械学習などで使われる考え方で、ざっくり言うと「一人の天才より、視点の違う複数の判定者の合議の方が、間違いにくい」という発想です。
トレードに引き直すとこうなります。押し目を判定するのに、たとえば「勢いの強さを見る役」「売られすぎ/買われすぎを見る役」「ボラティリティ(変動)の状態を見る役」「トレンドが本物かどうかを見る役」――こういう着眼点の違う判定者を複数置いて、それぞれの見立てを統合してから、入るか見送るかを決める。
(補足:RSI・ボラティリティ系・トレンド強度系といった「一般的な指標の種類」を組み合わせる、という構造そのものは珍しいものではありません。世の中の多くのEAが指標を併用しています。Arseneの中身=どの指標を・どのしきい値で・どう統合するか、は商品の核なので書きません。ここで話しているのは「複数視点で合議させる」という思想だけです。)
なぜ単一ロジックではダメなのか
単一のルール(たとえば「RSIが◯◯を割ったら買う」だけ)でやると、何が起きるか。
そのルールが効く相場では強い。でも、そのルールの「死角」を突かれる相場が来た瞬間に、連敗します。単一ルールは、構造的に死角がひとつしかなく、そこを相場に見つけられると一気に崩れる。これが、世に出回る「あるバックテストだけ綺麗なEA」がフォワード(実戦)で崩れる典型パターンだと思っています。
アンサンブルの狙いは、「ある判定者の死角を、別の判定者が補う」ことです。勢い系が騙された場面で、ボラティリティ系が「待て」と言う。トレンド系が乗り遅れた場面で、売られすぎ系が拾う。死角を分散させることで、特定の相場パターンに一発で殺されにくくする。 これがアンサンブルにした最大の理由です。
アンサンブルの正直なコスト
ただし、アンサンブルにはコストがあります。これも正直に書きます。
1. 複雑になる=過剰最適化(カーブフィット)の温床になりうる。
判定者を増やし、統合のルールを精緻にするほど、「過去のチャートにピッタリ合わせ込んだだけ」の危険が増えます。検証記事で何度も「カーブフィットの懸念が最大の宿題」と書いてきたのは、まさにこのアンサンブル構造の自由度の高さが原因です。多視点で堅牢にするための仕組みが、やりすぎると逆に脆さの源になる。 ここは諸刃です。
2. 取引数が減る。
複数の判定者の合議で「全員がGOを出した押し目」だけに絞ると、当然エントリーは厳選され、回数は減ります。「もっと取引してくれよ」と感じる人もいると思います。でもこれは、「数を打つより、見送る勇気を機械に持たせる」という思想の表れで、意図的にそうしています。先に書いた通り、押し目買いの本質は「どの押し目を見送るか」なので。
まとめ:Arseneは「正直な専門機」として設計されている
長くなったので、設計思想をひとことずつでまとめます。
- 聖杯は無い。 だから万能を狙わず、自分が一番分かっている局面に振り切った。
- ゴールドを選んだのは、12年で一番相場観があり、ボラがスキャルと合い、長期上昇バイアスを土台にできるから。
- ロング専用にしたのは、追い風方向にエッジを集中させ、苦手相場を明確にして正直に開示するため。
- 押し目スキャルにしたのは、入口の質を上げ、相場が変わる前に利を確定し続けるため(その代償が高勝率依存)。
- アンサンブルにしたのは、単一ルールの死角を分散させ、一発で殺されにくくするため(その代償がカーブフィット懸念と取引減)。
全部に「狙い」と「代償」がセットになっているのが分かってもらえたと思います。強みと弱みは同じ場所から生まれている。 だから僕は、強みを語るときに必ず弱みも書きます。それがこのEAの設計思想と、いちばん誠実に向き合う書き方だと思うからです。
具体的な数値や数式は出していませんが、「考え方の骨格」は全部出したつもりです。この思想に筋が通っていると感じてもらえたなら、それが一番うれしいです。
次は、この思想を踏まえて「じゃあ実際にこういうEAを動かすとき、何を準備して、どう運用を考えるべきか」という、もっと実務寄りの話を書く予定です。
注記(必ずお読みください)
- 本記事はArseneの設計思想(考え方)の共有を目的としたもので、具体的なパラメータ・しきい値・内部ロジックの数式は開示していません。
- 本記事で触れたバックテスト結果(PF1.08・相対DD81%・複利での純益など)は、特定の検証条件(XMTrading実データ・XAUUSD・M1・各期間・変動スプレッド・モデリング品質99.9%)における過去の結果であり、将来の成果を保証するものではありません。
- FX・自動売買にはリスクが伴い、元本割れ(損失)の可能性があります。投資は自己責任で、余裕資金の範囲で行ってください。
- 本記事は特定のEA・通貨の売買を推奨するものではなく、検証・思想の記録の共有を目的としています。


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